バイトの求人があり、
- 時給1,000円
- 平日1日5時間(13時から18時まで)土日祝休み
- 法律事務職
法律の勉強をしているAさんは、上記の内容で雇用契約をむすびました。
1日5,000円の給料です。
ところがある日、いきなりボスが「今日は仕事がないから4時にあがっていいよ」と言ってきました。また別の日には「今日は子どもの行事があるから3時にあがってくれないか」ということでした。
そして給料日になりいただいた給料を確認すると、きっちり働いている時間分の給料しかありませんでした。Aさんとしては、事務所のボスの都合で早く退社したのだから、その分の時間の給料は支払われるべきと考えるのですがいかがでしょうか?
(民法の危険負担を説明するための事案です。特別法を考慮しないものとします。)
お互いの主張を整理します
労働者側Aさんの主張は、
わたしが1時間、2時間サボったりして、そのときの給料が支払われないというのなら意味はわかります。ただ、今回は、ボスの都合で早く帰っただけなのです。このときの給料は支払われるべきでは?
雇用者側ボスの主張は、
もともと時間給で雇ったのだから、働いた時間分だけ給料を支払えばよいのでは?
さて、どちらが正しいのでしょうか?
契約の拘束力を説明します
契約が有効に成立すると、契約で決めたことがらを当事者双方が守らなければならない、ということになります。これを契約の拘束力といいます。
最初の図を御覧ください。
今回の契約で決めたことがらはどのようなものでしょうか?
今回は1日5時間(13時から18時まで)という契約内容があるため、最初の図の下の矢印は、「1日5時間(13時から18時まで)働いてください、職務内容は法律事務職です」という内容となるかと思います。
危険負担について説明します
危険負担について説明する前に、その前提を説明します。
最初の図の2本の矢印は、それぞれ債権といいます。上のものは、報酬債権といいます。もっと簡単に金銭債権ともいいます。お金をくれ。
下の矢印も債権です。こちらは、非金銭債権です。ここではひとまず「1日5時間(13時から18時まで)法律事務職を働いてください債権」としておきます。
もう1つ前提を説明しますと、法律上金銭債権は「履行不能」とはならない(お金は天下のまわりもの、と法律上は考える)ということがあります。
ここでやっと、危険負担について説明しますと、
危険負担は、双務契約(反対向きの債権が2つ発生する契約、たとえば雇用契約や売買契約など)における非金銭債権が「履行不能」になった場合に、そのことはもう一方の債権にどのような影響を与えるか?というハナシです。
履行不能は、そういう状態のことだと考えてください。色がついていません。
双務契約における非金銭債権の履行不能が、どちらのせいで履行不能になったのか?そのときにもう一方の金銭債権に影響はあるのか?が危険負担の問題です。
条文を確認します
ここで条文を確認します。536条2項です。
ここでいう債権者は、非金銭債権(「1日5時間(13時から18時まで)法律事務職を働いてください債権」)の債権者である雇用者です。
結論としては、債権者(雇用者)は、反対給付の履行(お金を払う)を拒むことができない、ということになりそうです。
なお、624条の2の1号は、雇用契約において債権者(雇用者)が悪くなく働けなくなった場合(たとえば大規模災害など)を規定しています。ご確認ください。
ここまでがまくらです
危険負担のとりあえず536条2項は、これでわかりやすくなったのではないか?と考えます。
非金銭債権の債権者のせいで、非金銭債権が履行不能になったのならば、その人(非金銭債権の債権者)は、お金を払わなければならない。
どうでしょうか?
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