民法改正についてその前提をおさらいする(1)
とりあえず物権のことは考えたということにして、債権のことを考えます。債権は契約から生まれました。ここまでが図に表現されています。
ここで次に、債権が消える場面について考えます。
それぞれの債権について、債権者が満足する状況になったら債権は消えます。これを履行がなされたといいます。これがふつうの流れです。
では、債権者が満足できない場合は債権はどうなるのか?
そのなかの1つが、履行不能です。正確な定義はのちほどでてきます。とりあえず先にすすみます。
もう1つは、履行が不完全な形でなされたらどうなるのか?ということがありますが、これはこの次になります。
まず履行不能についてです。
履行不能の定義
平成29年改正民法には規定があります。「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能である」こと、です。(第412条の2第1項)
物理的に不可能という場合のみではなく、履行に多額の費用を要する場合も含みます(社会通念に照らして不能)。
また、「契約その他の債務の発生原因に照らして」は、契約内容はもちろん、契約当事者の属性や能力等も考慮しますという意味です。
売買契約後、引渡前に目的物が(なんらかの理由で)滅失したら
ひとまず履行不能なんだとします。
そうすると、履行不能の効果として、
債権者は、その債務の履行を請求することができなくなります。(第412条の2第1項)
くどいですが、今は引渡債権が履行不能になったということを考えています(金銭債権は法律上、履行不能とはなりえない)。条文にいう「債権者は、その債務の履行を請求することができない」というときのその債務とは、引渡債務のほうです。
そしてややこしいのですが、ことばとしての引渡債権、引渡債務これは同じものです。債権者からみたら引渡債権ですし、債務者からみたら引渡債務です。
結論として、買主は目的物を引き渡してくださいとは言えなくなりました。
平成29年改正前はどうだったのか?引渡債権(引渡債務)の履行不能
引渡債権(引渡債務)は、消滅しておりました。
ただし、その履行不能に引渡債権の債務者(売主)の帰責事由があれば、損害賠償請求権が発生しておりました。そして引渡債権が損害賠償請求権に転化した、といっておりました。
引渡債権の履行不能に債務者(売主)の帰責事由がある場合
ここで代金債権はそのままであることをご確認ください。ですので売主は、いまだ代金を払ってくださいといえます。
買主は、売主から代金を払ってくださいと請求された場合は、同時履行の抗弁権の主張をしたり、相殺をしたり、契約の解除ということができます。買主としては、代金債権(買主からみると代金債務)を消滅させようと思ったら、相殺や解除をする必要があります。
引渡債権の履行不能に債務者(売主)の帰責事由がない場合
もう1つのパターン、引渡債権の履行不能が引渡債権の債務者である売主に帰責事由がない場合(例えば天変地異)
このときは引渡債権(引渡債務)は、消滅します。
ここでは、売主に履行不能について帰責事由がないため、損害賠償請求権は発生しないことをご確認ください。
そして、このときに代金債権はどうなるのか?が危険負担の問題です。
危険負担は、教科書のおきばしょ的には、双務契約における2つの債権の牽連性(関連性)というところにあるかと思います。引渡債権が債務者の責めに帰すべからざる履行不能により消滅した場合に代金債権はどうなるのか?が危険負担の問題です。
より公平なのが代金債権も消滅する、だと思いますよね?覚え方が大変なので、より公平な、このときに代金債権も消滅することを債務者主義という、と覚えてください。その逆、代金債権がのこることを債権者主義といいます。ここはことばの説明です。
平成29年民法改正で、危険負担はどうなる?
改正前は、引渡債権は、債務者の責めに帰すべからざる履行不能により消滅していました。そのときに代金債権は消滅するのか?消滅しないのか?を考えるのが危険負担でした。
改正後は、引渡債権は、履行不能によりその債務の履行を請求することができないことになりました。(第412条の2第1項) そのときに代金債権の履行を拒絶することができるのか、できないのかを考えることが危険負担なんだということになりました。(第536条第1項)
債権者主義、債務者主義の考え方は同じです。より公平なのが債務者主義とおぼえておいてください。債権者主義をさだめた次の条文は、削除されました。改正前534条 改正前535条
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